ItB[フ冒
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   オルフィーは隣の家のある騒音で目を覚ました。眩しい日光がオルフィーの顔をぬらすように照りつける。それにしてもこの音はなんだろうという疑問を抱えつつ階段を駆け下りる。玄関には父の姿があった。
  「隣で何があったの」と、オルフィーは尋ねたが、「別に何も起こっていないだろう。」と父は答えた。気のせいかと思いつつ、彼は顔を洗い、眠い目をこすりながら朝食を済ませた。しかし、彼の運命を変える出来事がもうすでに始まっているとは、本人も分からなかった。

 ロンドンの西に位置するトルネオという、都会とは言えないが、きちんと整備され農牧がさかんな古い町から始まる。そこの高校に通う、17歳の青年、オルフィーは、それまでごく普通の青年だった。それまでというのは、正確に言えば1984年4月21日である。なにも意味しない普通の日に、何者かが静かに彼の運命を変えようとしていたのだ。
  どうもやっぱり、隣が気になるオルフィーは「新聞を取りに行って来る」という名目で外へ出た。
「ひっ!!」と急に誰かが息を吸う音がした。殺人現場とかで良く聞くあの音だ。
誰が出したのかと周りを見まわす。だれもいない。オルフィーは目の前にある隣の家の壁にある
大きな穴を見てもう1度「ひっ!!」という音を聞いた。そう、それはオルフィーが出した音であった。
隣の家に開いた穴の横には血の様な紅色でこう、書かれていた・・・・
  愚かなる生き物たち
闇に囲まれた廃墟へ
恋を歌うもの 月に呪われて
風を愛すもの 嵐にさらわれ

しかし、彼は何なのか気づけないまま、平穏な毎日が少しずつ変化しているのを感じ、心を騒がせるものの正体を探し続けていた。
 
 そんな中、彼の通っている学校にグラフィックシステムというコンピュータシステムが設置されることとなった。グラフィックシステムとは、文章から色彩や動作などを読みとり、映像化するもので、文学と美術の総合的な授業の教材であった。真夜中に学校に忍び込んだ彼は、その言葉をセットする。そしてスイッチをオンにした瞬間―

  Just lean on me 世界が今変わる

 画面から膨大な光が溢れ、一瞬にオルフィーと教室を光の渦で包んだ。誰の声か分からない声で彼を引き寄せ、何者かの呪文のような言葉が、彼の胸に響き渡る。
 
その日、オルフィーはかつて味わったことの無い極度の疲労に襲われていた。無理も無い。まだほんの子供に過ぎない、今まで平和な生活に勤しむことに慣れきっていたオルフィーにとって”今日”という一日はあまりにも酷であったに違いない。ともあれ、彼は、すべてが終わって欲しいという半ば現実逃避的な考えを持たざるを得ず、逃げ込むようにしてベッドの中にもぐりこんだ。

翌日、オルフィーは昨日という日などはまるで無かったかのような明るい笑顔だった。しかし、それは昨日の自分から逃げていると取れなくも無かった。
今日も学校はある。学校好きのオルフィーにとっては、それはなによりの喜びだった。元気よく家を飛び出す。ふと、偶然、いや不幸にもオルフィーの視線は隣の家に注がれてしまった。するといつもと様子が違うことにはすぐに気づいた。なんと昨日まであった穴がそこには無かったのである。穴はまるで昔からそこにあったようにふさがれ、オルフィーは言い知れぬ恐怖を覚えた。
そしてその上にはこう記してあった。
  Olfyyour's turn next.(オルフィー、次はお前の番だ) この言葉にオルフィーは絶句した。そして、体中に寒気が走り、頭の中が真っ白になる。オルフィーはしばらく動けなかった・・・・。
あとになって、地元の警察が駆けつけオルフィーも事情聴取を受けた。  殺されていたのは、隣の家の主人で、警察が言うにはどう見ても人間の成しえる業ではないらしい。それに問題はあの言葉である。なぜ自分が命を狙われるのか?全く身に覚えのないオルフィーに言い知れ得ない恐怖と不安が襲った。しかしこれはまだ事件の序章に過ぎなかった・・・・。
翌朝、オルフィーはベッドから這い出るようにして起きた。しかし、目の下にはクマができている。結局昨夜はほとんど眠れなかったのだ。そして、重いからだを引きずりリビングに入ったオルフィーはさらに衝撃的な事件を知ることになるのだった・・・・。
 
彼がリビングのテレビをつけると、ニュースで自分の高校がテレビに映っていたのだ。新設されたグラフィックシステムのあるコンピュータルームで、毎晩不気味な声がして、閃光を放っているらしい。彼は疲れ切っていたので、学校を休んでいたので、このことは全く知らなかった。この自分の身の回りで起こる奇妙な出来事に頭を抱えていたのだ。そして、彼はもう一度部屋に戻り、深い眠りについた。

  心を惑わすもの 闇に身を潜めて
  君を待ちかまえる 夢を奪うために

  すぐそこに君がいる
  この森の向こう側
  すぐそこに君がいる
  出会えずに 気付かずに

 気が付くとオルフィーはただひとり、森の中をさまよっていた。そこがどこなのか、なぜ自分がそこにいるのか、これからどこへ行くのか、何もわからず、たったひとりで。
 不快な重低音と呪文のような声、途切れ途切れに聞こえる歌。それは、確かに彼を呼んでいる声だった。彼を励まし、彼に警告を与え、彼を呼び寄せるような声―。邪悪な手が彼が行くのを阻むのを感じながらも、森のなかをさまよい続けた。

 さまよい続けるオルフィーが出会うべき者は、JUST ONE VICTORYのメンバー、キャロル、ティコラ、スピューダ、の三人だった。JUST ONE VICTORYというのは、以前、流行っていたバンドであるが、このところになって世間の評判はがた落ちだった。しかも、その三人の正体は明らかにされず、存在さえも否定されていた。しかし、オルフィーはそんな中、彼らの曲に他の人とは何か違うことを感じていた。
 オルフィーと彼ら三人が初めて出会ったとき、オルフィーは生まれながらの使命感と、彼らの正体と、闇の世界の支配者が分かったのである。
 やがて彼らは一体となり、邪悪なる世界の支配者と戦うべく、闇のラビリンスを駆け抜けるのだ。

  彼に託されたものは―。
  呪文の意味は―。
  JUST ONE VICTORYは―。 
 
 しかし、オルフィーには「JUST ONE VICTORY」の事など知る由も無かった。ともかくこの森から抜け出さなくては。そう思うしかなかった。しばらく歩くとそこには一軒の小屋があった。あたりはもう日暮れ近くで、不気味な音が、まるでオルフィーを包み込むかのように鳴り響いていた・・・。
 オルフィーにはここに泊まるという以外の選択肢は無かった。しかし、中にはどんなやつがいるか分かったものじゃない。今のオルフィーには必要以上の警戒心が、この森に入ったときから漲っていたのだった。
 中を覗くとそこには人っ子一人いなかった。「今日はここに泊まろう」まるでそれは誰かが仕掛けた運命のようにも思えた。
 オルフィーは眠りについたが、すぐに目を覚ました。「なにかが聞こえる・・・」それは誰かの足音に他ならなかった。無気味な音はゆっくりと、そしてまた確実にオルフィーのほうへ近づいていく・・・。
   もう既に日は落ちて、あたりを照らしてくれるようなものは見当たらなかった。
 オルフィーは動けなかった。いや、動かなかった。少しでも音を立てれば、不気味な足音の主が飛んできてオルフィーを襲うような気がしたからだ。
 視線すら音のする方から動かすことができず、吹き出してくる汗が肌を滑り降りるたびに心臓が破裂しそうになった。
 足音は小屋の入り口のところまできて止まり、ドアに手がかかる気配があった。恐怖の絶頂である。オルフィーの意識は半ばなかった。
 そして、蝶番がきしみ、ドアが少し動いたときにそれは起こった。
 オルフィーから見てそれはドアのむこうから噴き込んでくるようだった。青と黄色の入り混じった、目もくらむような光の塊である。しかし、ドアのむこうの相手も同じことを思ったのだから、その「光の塊」はオルフィーと足音の主とのわずかな「間」から発生したに違いないのだ。
 この「光の塊」は異世界同士の物体が接触したときの、行き場の無い膨大なエネルギーのなれの果てである。
 異世界同士ということはドアのところに立っているのは…

 ひとり走っている少年がいた。
 日課のランニングという雰囲気ではない。死に物狂い、自身の限界を超えて、自分の意志ではない物によって“逃げていた”。
 家の前でリフティングをしていて、通りかかった生き物に間違ってぶつけてしまったのだ。鋭い光が広がって、その生き物は一瞬苦しみ、すぐに少年に飛び掛ってきたのだ。
 ちょうど家族団欒の時間である、助けてくれる人などいない。
 少年は森のほうへと走っていった。

 ドアのところにいるのは、まるでSFの世界から抜け出してきたような生物だった。
 かろうじて意識のあったオルフィーは、それが2本の足で直立し、ヒトのような歩き方をするらしいことを知った。身長は150くらいであったが、動きに重みがあり、ざらざらとしたその生き物の表面は、不気味にぬれていた。
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